「──…っ、」
藍嘉さんが小さく息を吐く、第二部開始の合図。
再び透き通った声が僕の身体を包みこむ。ファンの一部が女神だと仄めかすが、その表現は間違いだ。なにより藍嘉さんは男だし、別に神がかったほど歌が上手いわけでもない。
僕が称するとしたら、紛れもなく天使だろう。


 天使が舞い降りた夜
 キミをボクは閉じ込めた
 暗い部屋の中でキミは
 ただボクに笑いかけた
 ボクが怖いはずなのに
 ただキミは笑ったんだ

 天使が舞い降りた次の朝
 キミをボクが愛せたら
 明るいキミの笑顔の元で
 ただボクは朽ちるだけ
 ボクは犯した罪故に
 ただキミを抱きしめよう


タイトルが《天使》というこの曲は、作曲が社長と哉勒さんで作詞が綾兎さんと椋汰さん。こんなサディスティックでツンデレな詩を書けるのは二人で考えたからに他ならない。
僕は視線を鍵盤に落とし、弾くことだけに集中した。