あからさまな舌打ちとともに僕から離れていったのは磨き上げられた銃口、言わずもがな哉勒さんの相棒だ。僕が気付いていなかったら哉勒さんは発砲するつもりだったのだろうか。冷や汗が背中を伝う。
「ハク」
「はい」
「今すぐアイから離れろ」
「…だそうです、アイさん」
「……お兄ちゃんもハクもケチ!いいじゃん少しくらい、久しぶりなんだよ。みんな揃うの」
「…アイさん…」
「何や湿っぽい。たかが1ヶ月ちょいやないか」
「俺はリョウくんのそういう神経が分かんない!」
「そか、残念やな」
「…うう…もういいもん!練習しよ!」
こうして《BLANK》の1ヶ月振りとなる合同練習が始まった。と言っても、全体練習と称するよりは各々のイメージとかリズムを合わせるだけの単なる確認作業であることが多い。
ただ僕は、哉勒さんのペースに合わせて弾くだけなのだけれど。
少し余裕がある僕はいつも、歌う藍嘉さんの背中を見つめる。藍嘉さんは歌うときに必ずブカブカのニット帽を被る。藍嘉さん曰わく《集中するため》らしいが、視界が遮られることで集中できるとは考えにくい。恐らく自己満足的な理由だろう。
しかしやはり、歌っているときの藍嘉さんはのびのびしている。それは見方を変えれば、強がっているようにも取れた。
それは事実になりうる仮定。
藍嘉さんが僕といるときの態度、最近の動向、そして、唄子さんとの接触による表情から言動までの些細な変化。
僕はそれらを、全て記憶している。
所謂、特殊能力者と云った類の人間である。《BLANK》のメンバーは皆、その人間とは違うハグレ者なのだ。