「…唄子は、騙されてんねん」
「巳波晃に?」
「いや…巳波家にや。唄子は俺の代わりに犠牲になったもんなんや」
「───リョウ」
今まで会話に参入しようとしなかった哉勒さんが発した声は、やっぱり怒ってるみたいだった。
「何や、リーダー」
「貴様は何をもったいぶっている。言いたいことがあるなら言え、過ぎたことでいつまでも後悔している場合ではないだろう」
「……分かっとるよ」
椋汰さんが再び見せた痛切な表情に僕は状況を整理する。次の椋汰さんの言動諸々は間違いなく、真実に繋がるための糸口だと感じたからだ。
「──まず、俺は唄子の兄であり、叔父でもあるんや」
「…は?何でだよ、それおかしいじゃねーか」
「アヤ、黙って聞いとれ。…もちろん巳波晃は俺の父親や。けど、唄子の父親はアイツやない」
そこで一旦息を吐き、椋汰さんは続けた。
「唄子は、俺の母親と俺の兄との間に生まれた子供やねん」
「……」
「俺の母親は俗世界の人間やったから、巳波じゃなく南と名乗ってた、南眞智子っていうんやけど。俺の兄は、」
「…兄は?」
「巳波薫流、さっきの糸目野郎な」
俺の中で巳波家の相関図が出来上がった。普通では有り得ない構造をしている。
「俺は薫流が、唄子を攫ったと思っとる。…それだけやねん」
「…そうか」
一方哉勒さんは一言、そう呟いただけだった。