「何の真似だ、巳波晃」
「手荒ですまないね、絵陰殿。我々はそちらの坊やに用があるのだよ」
僕に刃物の切っ先が向けられるのと同時に、哉勒さんは黒子の陰に隠れていた老人に銃口を向けていた。
「ハク」
「はい」
「目を閉じて腕を後ろで組んで、何も考えず無心に。読むから」
「…はい」
藍嘉さんに指示された通りにすると、肩に小さな手が置かれるのを感じる。藍嘉さんは読心術だけでなく、触れることで対象者の記憶を読むこともできるのだ。
「……ん?」
「どうしたのだね遊佐殿。貴女のことだから我々の思考を読み、かの時間に坊やが何をしていたか探りとれるのだろう?」
「午前3時、ハクは熟睡してたよ。犯人にはなり得ない。それは同じベッドで寝てた凛太郎って人が証明できる」
「何…?!」
真っ暗な視界の中で考える。そういえば僕は何故刃物を向けられなければならなかったのか。藍嘉さんの発言から推測するに、その時間に何かがあったのだ。そして、それは連れ去られた唄子さんに関係している。
「ご名答だよハク」
もういいよと藍嘉さんに頭を撫でられ、恐る恐る目を開けると、既に腰を据えた晃さんがこちらを睨んでいた。
「無礼を致して申し訳ない」
「…いえ」