「…──っ、」
「おはようございます」
僕は今、巳波組の屋敷を訪問している。只今の時刻は午前3時。訪問するには些か非常識かもしれないが致し方ない。
「何か、御用ですか」
「そんなに怖がらないで下さいよ。巳波唄子さん…いや、南唄子さん」
「……父上を呼びます」
「僕だってあなたとは争いたくないです。出来れば穏便に済ませたい」
「《掃除屋》の紡ぐ戯言など信用できません」
完全に警戒心剥き出しの唄子さんに溜め息が出る。
「…ふう、悪いけど今の僕は《掃除屋》じゃない。ルールに従うつもりも、キミを生かしておく必要も、ない」
「あ、あなた、は、」
「キミもチカラが遣えるなら少しは疑いなよ。…そういえばキミにはお兄さんがいるんだってね」
「……」
「巳波椋汰、彼は南じゃないのかな?」
「…黙りなさい」
ヒシヒシと感じる、彼女の殺気。常人ならこの場で失神してもおかしくない程の気迫だが、如何せん僕は常人じゃないのだ。
ゆっくりと微笑み、後退る唄子さんの腰を引き寄せる。
「…な、」
「ごめんね?少し、眠ってて」
耳元でそう呟いたときにはもう、唄子さんは完全に体重を僕に預けていた。彼女を抱き上げて初めて気づいたが、成長期の女の子では異様なほど軽い。いや、だからこそ着物が似合うのだろうか。
そんな変態地味たことを考えていたら、屋敷の灯りが点いていることに無関心になっていた。知的そうな細目の男と、強面の連中が周りを囲んでいる。困ったなあと見回していると、強面の一人がドスのきいた声で言った。