帰ろう…



あたしはポケットから
ケータイを取り出した。



──プルルル プルルル…



耳元でコールが
こだまする。



──ピッ…



3、4回のコールで
お兄ちゃんが出た。



《…もしもし、奈菜か?》



「…お兄ちゃん?
あのね…
迷子になっちゃった…
ふふっ…ふ…っ」



無理して笑ったって
ダメなんだ。



お兄ちゃんの声を聞いたら
笑いから涙に
変わって頬を伝っていた。



でも優しいお兄ちゃんは
何も聞いてこない。



いつもそうだった。



「今どこだ?」




「わかんない。
でも、コンビニと
ペットショップが見える」



あたしは一通り
回りの風景を伝えた。



「すぐ行く」



そう言うと
お兄ちゃんは
電話を切った。