そんなある日、叶子は体育の授業中に具合が悪くなった。
 元々身体は丈夫なほうではない。所謂保険室の常連だ。

 その日も、保険委員に付き添われて、体操着のまま保険室に向かった。


「お昼休みが終わるまで、ここで休んでいきなさい。
 高輪先生には伝えてあるから。あと、お友達が制服とお弁当を持ってきてくれたわよ。気分がよくなったら、着替えてから食べるといいわ」

 叶子が、いつもすみません、ありがとうございます、と云うと、保険医は笑って答えた。

「そんなに恐縮しないで。それより、顔色もよくなってきたわね。お昼にする? お茶を淹れるわよ」


 若くて美人のその保険医は、優しいけれど、さばけたその性格故か、女生徒からも人気があった。
 叶子にとっても、本音が云える数少ない相手だった。




 ……彼女の左手の薬指にはまった、小さな石のついたリングを見るまでは。