結局、叶子は一言も喋らなかった。

 捲し立てる母親の横で、叶子はぼんやりと考える。

(私の選ぶべき進路は?)



――高校なんて、どこだって同じ。だって、私の一生なんて、あの蝉と同じなんだから……
――ただ生きて、……ただ死ぬだけなんだから。


(どこでもいい。学校なんて)


 そう考える叶子の視界は、再びセピア色に侵食されるのだった。


 空だけが鮮やかな青のままで……いや。
 もうひとつ主張する色彩を……プラチナ色の輝きを、叶子の目は捉えた。

 高輪の、左手の薬指に。