叶子の目線に気付いた彼女は、はにかみながら云った。

――ええ、もうすぐ結婚退職するの。あなた達とも会えなくなるから、悩んだのだけど……


――相手? ふふ、まだ内緒よ。まあ、すぐにわかるでしょうけれど。



 程なく保険医の言葉は証明された。
 2日後の放課後、本を返しに行った理科準備室で、同じデザインの指輪を見たから。――本を受け取った高輪の指に。



 その日以来、叶子は理科準備室にも、保険室にも近づかなくなった。