雅樹の質問に、記憶の糸をたどるように考え込む隆志。

「あっ!」


何かを思い出したように、右隣の稔の席を見つめる隆志。


「お・・思い出した!あの時、雅樹を追いかけようとして、俺は席を立ち右側から移動したんだ!」


「えっ!右から!まじで?」


隆志の言葉に驚く幹男。


隆志の言うことが正しければ、稔はその時点で、すでにいなかったことになる。


雅樹は、隆志の言葉から自分達が暗示にかけられていた事を確信した。


稔がいたのならば、隆志は左側から回りこんで移動するしかないはずなのだから。


隆志と幹男は、稔の席を見つめながら、その事実に唖然とする・・・


「あ・・・あの時にはもう、稔はいなくなっていたのか・・・」


「そう、稔は3時間目の授業中に、確かにいなくなった。しかし、俺達は誰1人
稔がいなくなった事に気づかなかった。いや、気づかないように暗示にかけられていたのさ」


「で・・でも誰が暗示なんか、かけたのさ?」


自分達の知らないところで自分達に暗示をかけ、教室の仲間をいなくなさせる存在に
幹男は恐怖する・・・


「アイツさ!」


雅樹は、教壇で一心不乱に英文を書き込む、アイツの背中を指で差し示す。


「ア、アイツが!」


雅樹の指摘に驚く隆志と幹男。信じられないという表情を雅樹に向けている。



「俺も幹男に言われて気づいたんだけど、隆志は、アイツの名前を言えるか?」



そう雅樹に言われて、アイツの名前の記憶を呼び起こそうと考え込むが、アイツの名前がどうしても出てこないのである?