隆志に代わって雅樹が、アイツに言う。


アイツの表情が、ほんの少し険しくなるように見えた。


「俺達、早退させてもらいます」


「・・・早退?・・・理由はなんです?」


アイツは、再び無表情になり冷静な声で雅樹に問いかけた。


早退の理由を聞かれて、声を詰まらせる雅樹。


「理由も無しに早退を許可させる事はできませんよ」


雅樹は、早退する理由を考えたが、理由がみつからない・・・


まさか、みんながいなくなるから早退させてくれとは言えない。


本当は、それが早退したい理由なのだが・・・


・・・理由が無いなら作ればいい・・・


「はしかです!」



そう答える雅樹に、驚く隆志と幹男。



「・・・はしかですか・・・?」


「はい!俺たち三人にも、はしかの症状が出たので帰ろうと思って・・・」


アイツは、雅樹の言葉に少し考えながら答えた。


「・・・それは変ですね?あなた達三人は子供の頃に既に、はしかに掛かっているはずですが?」


・・・なぜ、その事を知っている・・・?


雅樹の心の中の疑問の声が聞こえたように、アイツは続けざまに言った。


「早退した、稔くんがそう言っていましたから・・・」



・・・稔が?・・・


「さぁ三人とも早く席についてください。授業も残りわずかですからね」



隆志は、5時間目の授業が残り10分足らずなのを教室の時計で確認し雅樹に言う。


「雅樹、授業も後10分で終わるから、とりあえず席に戻ろう」


雅樹は、あいつの言葉など無視して教室から飛び出したい衝動に駆られたが、隆志と幹男を置いては行けない。


・・・5時間目も残り10分たらず・・・この10分を乗り切れば・・・しかし・・・



アイツは、躊躇している雅樹に向かって強い口調で言った。



「さあ、高橋くん早く席につきなさい!