雅樹が小声で、隆志に訴えるように言った。


「これは普通じゃない!たった2時間近くで生徒が10人もいなくなるなんて!」


初めて見る雅樹の表情に戸惑う隆志。


「おいおい雅樹、どうしたんだよ?いつものお前らしくないぞ?」


「たしかにクラスの中の10人がいなくなっているけど珍しい事でもないだろう?」


「えっ!」


隆志の意外な返答に、今度は雅樹が戸惑う。



「だってそうだろう?たしか去年の今頃、英語の中根の授業をクラスの半分ぐらいが
受けたくなくて、さぼったなんて事件もあったじゃないか?」



隆志は教壇のアイツを指差し、雅樹に言う。



「今日の授業はアイツだぜ、しかも6時間続けてだ。これじゃ授業をサボリたくなる
奴らがいても不思議じゃないって」





二人のやり取りに聞き耳を立てていた幹男は、見慣れない光景に強い興味を惹かれた。


・・・雅樹を、隆志がなだめている・・・



いつもならば冷静沈着な雅樹が、短気な隆志をなだめている光景なのに。



・・・これは、ただ事ではない・・・?


そう思った幹男ではあるが、深刻そうな二人の会話に割り込むことができずにいた。


「・・・そうだ?稔!」


幹男は自分の席の後ろにいる、稔と話してみようと振り返ったのだが。



・・・Z z z ・・・Zz z z・・・・・



稔は、既に深い眠りの世界の住人になっていた。


「・・・こりゃダメだ!」



幹男は、二人の会話を聞き逃さないように意識を、雅樹と隆志に集中していった。