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バタン、とやたらでかい音をたてて閉まったドアにそのままもたれかかる。
どっと疲れが押し寄せてきて、深く息を吐いた。
靴を脱ぎ、肩に掛けていた鞄をずるずると下ろしながら部屋に上がる。
薄暗い部屋の中を、壁伝いに電気のスイッチを探す。やがてそれらしい感触を見つけ押してみれば、軽い音とともに辺りが人工的な明かりに包まれた。
それと同時に、ズボンのポケットに突っ込んでいたケータイが震える。
通話ボタンを押して耳に当てると、懐かしい声が聞こえた。
「―……着いたか?」
電波が悪いのか、微かなノイズに混じり聞こえたその声は、……父親。
数時間前に別れたばかりだというのに、妙に懐かしさを感じる自分に不思議な心持になりながら、うんと頷くと、そうか、と小さく返される。
慣れないこともあるだろうが――…
と、間をおいてぼそぼそと聞こえた、あまりに父親らしすぎる言葉にくすぐったくなりながら、俺はただ、頷いていた。
離れてみて、感じる。
この人は紛れも無く、俺の父親なのだと。
だが、心配そうなその声は父には似合わない。
違和感が胸を這いずり回って、
「空気も景色も綺麗で、マンションの人たちも優しそうな人だよ。だから、大丈夫だから」
と早口で言うことで、俺は父の言葉を止めたのだった。