夕陽に取り残された誰もいない公園の錆びた滑り台に立っていた。

街灯の青い光がパチパチと瞬きをするように不規則に点滅している。

蝶の羽ばたきのようだとも言える。

ここから見えるのは、砂場、ブランコ、ベンチ、樹、街灯、影。

僕を囲むすべて。

すべて。

青く染まるすべて。

青く。


そこへ男がやってきてブランコに座った。

街灯を浴びた男の顔は真っ青だった。

《何をしてるの?》

僕は聞いた。

最初から僕が滑り台にいるのを知っていたみたいに迷うことなく視線を僕に滑らせた。

《消えるの。私はないの。ないの。なかった。私はないの。消える。悲しいのに。でも誰も知らないから。ないの》

男は顔をまっすぐに戻してブランコを2回漕いだかと思うとぴょんと飛び降りた。

そしてブランコの椅子を吊すための鎖の一本を両手に持ち、首に巻き付けた。

男は空を切り裂くみたいな声で泣きながら首をつって死んだ。

男の顔は真っ青だった。

北から滑り込むような風が吹いてきて男とブランコが微かに揺れて地面にできた体液の染みが伸びた。

僕は気がついた。

そうか。僕もか。
だからここに居たんだ。

僕はたぶんこの滑り台を捨てる。
この場所を捨てる。

だって僕はあの男みたいにはなりたくないから。

死ぬのは怖いと泣いて、金属の臭いにまみれて、何もかもを漏らしながら死にたくはないから。

この混乱に溺れる滑り台が僕の世界だったとしても。

青い光の届かないところへ。