「何も知りません」

「嘘だ」

紅夜さんが強い口調で否定した

「どうして?」

「知っていて知らないフリをされるのが嫌なんだ」

「本当に知りません
ただ姉が『綾さん』と言っていたのを覚えていただけです」

私は下を向いた

紅夜さんはきっと『綾さん』という人を忘れられないんだ

優しくて、真面目で…大人しい人だったに違いない

お互いに想い合っていたのに、ふとしたきっかけで壊れてしまったのかな?

些細な…ほんの些細な食い違いで、好き同士なのに別れてしまった

そして取り返しがつかないまま、紅夜さんだけ彼女への想いを忘れられない

そんな気がする

だから一瞬でもさびしい心を埋められる相手だけを求めているんだ

本当に甘えたいのは『綾さん』であり、他の女性では足りなさすぎる

私がたとえ、いくら頑張っても紅夜さんの全ては受け止めあげられないのだろう