「紅夜が、君みたいな子と出逢えて良かったよ」

紅夜さんのお父さんが、満足そうにうなずいた

え?

私でいいんですか?

…って、私と紅夜さんとの恋愛を認めてくれてるんですか?

綾さんではなくて、私を…?

なんか、嬉しい

反対されなくて、良かった

「うわぁっ」

四階に辿り着く最後の階段で、紅夜さんのお父さんが派手に転んだ

また紙袋の中身が散らばる

「あちゃあ
ゲーム機が壊れてないといいなあ」

お父さんは、散らばった荷物をいそいそとしまっていく

私も、近くに転がってきた化粧ポーチを拾った

「あ、ありがとう
綾は、すっぴんを見せないんだよね
だから、化粧ポーチがないと…きっと怒ると思って
どんな素顔だって、綾は綾なんだから、気にしなくていいのいねえ
紅夜の前で、必死に素顔を隠すなら、若いって初々しくて可愛いなあって思うけど
私はもうおじさんだし、そんな細かいことなんて気にしなくて構わないのに」

お父さんがニカッと笑った

もしかして綾さんも、紅夜さんのお父さんに想いを寄せ始めている…とか?

だから素顔を見せるのが恥ずかしい…って思ってみたり…て私は綾さんじゃないから、わからない

「優しいんですね」

私はお父さんに微笑んだ

お父さんは首を横に振って、困った表情になった

「妻だから
どういう経緯で、結婚したか…それはもうどうでもいいことなんだ
綾は、少し荒れた性格だけど、素直な部分だってあるし、可愛いところだってある
少し大人からもらった愛情が薄かったんだろうね」

紅夜さんのお父さんって、愛情が深いんだろうなあ

なら、どうして結婚と離婚を繰り返したのかな?