紅夜さんの手が私の手から離れると、服の下に手が滑りこんできた

その手が背中に行き、指先がブラに触れる

ひぃ、とうとう…きたっ

私の体が硬直すると同時に、携帯が大きな音とたてて鳴りだした

ううん、音自体はいつもと同じ大きさだったと思う

ただ私が、紅夜さんの世界に溺れていたから、そこから引きずり出された驚きで、大きく聞こえた気がした

私の体がびくっとなり、音がしてきた場所に視線が動く

紅夜さんも私の体から手を離れると身体を起こして、テーブルを見つめた

いつものところに置いてある紅夜さんの携帯が光っている

紅夜さんはベッドから降りると、携帯の液晶を見た

見た瞬間に、紅夜さんの顔色が変わった

眉間に皺を寄せて、携帯を手に持った

どうしたの?

紅夜さんの険しい顔つきで、私の心が一気に下降していく

一瞬で、幸せな気持ちが消え失せた

「もしもし?」

紅夜さんの声も低い

『綾が…』

女性の声が携帯から漏れてきた

え? 綾さんが?

私はぱっと顔をあげる

紅夜さんは私に背を向けていた

「どうしたんだよ」

『手首、切った
私が仕事に出かけようと思って、下におりてきたら風呂場からシャワーの音がしてさ
つわりで吐いて、汚れた身体でも洗ってんのかと思って、ちょっと覗いたら…
風呂場が真っ赤で…綾が手首切って、湯船に手を突っこんだまま、動かなくて
やばいって思って、すぐに救急車を呼んで…』

「それで?」

『今、病院にいるんだけど…綾のそばに居てやれるヤツがいないんだ
私、仕事、休めそうになくて、オヤジに電話したんだけど、やっぱ仕事で行けないって
朱音は未成年だろ? だから…』

「俺に来い、と
わかったよ、行くよ」