「あっ、作りますよ
…でも、材料がないかも…」

私はぱっと笑顔を作ると立ち上がって、冷蔵庫に近づいた

紅夜さんは冷蔵庫の前から退いてくれる

私は冷蔵庫を開けると、中身を見つめた

「う~ん、買物に行かないとですねえ」

「じゃ、外に食いに行くか」

紅夜さん…食べる前に話して欲しいよ

綾さんとどんな話をしてきたのか

じゃないと、不安で…食欲なんて湧かない

私は冷蔵庫の扉を閉めて、体を起こすと、ぎゅっと背後から抱きつかれた

紅夜さんの呼吸が、耳元で聞こえる

「大丈夫だから
思いつめた顔をしないでくれよ
綾とは何もない
これから先、ずっとな
ちゃんと話して、互いに納得した
綾も、俺の父を愛するように努力をするって言ってた
それに綾も、俺も…好きって感情はとうに消えてた
ただ別れ方が普通じゃなかったから、心に引っ掛かってただけで
再会の仕方も普通じゃなかったから、罪悪感で…ただ、動けなくなってただけだったんだ」

紅夜さんの声が、私の耳をくすぐりながら、心をも動かしてくれる

「過去に心を置きっぱなしになってただけなんだよな
俺も、綾も
その取り戻し方がお互いに見つけられなくて、感情の整理がつけられなかった」

白い冷蔵庫がまるで、テレビ画面のように、紅夜さんと綾さんの相談風景が見えた…気がした

「だからもう大丈夫
俺も、綾も
置いてきた感情を取り戻したから…俺たちの恋愛に決着がついたよ」