紅夜さんはあり得ないくらい怖い顔をして、私を見ている

私はびっくりして、ベッドからお尻が落ちた

床にどすんと尻もちを打つと、痛みで顔をゆがめた

「あ、いたたっ」

私は「えへ」っとほほ笑むが、紅夜さんにはぷいっと視線をそらされてしまった

「だってわかんないんだもん
どうしたらいいのか…何が最善な方法なのか
私は気のきいた言葉とか言えないし、ただ紅夜さんの苦しそうにしてる顔を見て、抱きしめてあげることしか、出来ないし
紅夜さんの気持ちを全部理解して、『こうしたほうがいい』って言えるほど人生経験だってないし
ただわかるのは、紅夜さんと綾さんはまだ両想いだってことで…
両想いなのに、一緒になれないって事実だけで
そこに私が邪魔してて…綾さんの傷つく目とかが、頭から離れなくて」

だんだん何を言いたいのか

私自身わからなくなって、言葉を止めた

思ってること全てを口にしたら、この関係が崩れてしまいそうで

できれば、紅夜さんとは離れたくない

まだまだ一緒にいたいよ

「俺は愛実に人生の道標を示してほしいわけじゃない
傍にいてくれるだけでいいんだ
近くにいて、抱きしめてほしいんだ
綾とは何があろうとも、もう関係を戻すつもりはない
たとえ綾が俺との関係を望んでも、俺は望まない」

「どうして?
好きなんでしょ?」

私はベッドに両手をつくと、身を乗り出した

「好きじゃない
俺が好きなのは、愛実だ…綾じゃない
完全に綾への気持ちを吹っ切ったわけじゃないのは事実だ
だからって綾がまだ好きだとういうことにはならない
俺の恋人は愛実だ」

『恋人は愛実だ』

その言葉に私の胸は熱くなる

同時に苦しくなる

本当に?って疑ってる自分がいるの

気持ちを吹っ切れないのは、まだ好きって証しじゃないの?って

心の中で、紅夜さんの言葉に突っ込みを入れてしまう