熱に浮かされたように話すカルレインの瞳が、不意にリリティスの瞳と重なった。


「それで、わざわざ自分を憎んでいそうな相手との結婚をお膳立てしたのですか?」


「その方が、俺という人間の公正な評価ができるだろう」


カナン国の城の中で、表立ってカルレインを非難するものなどいまい。

それは、事実、カルレインが民に認められるような政を行っていたせいかもしれない。

しかし、それが彼の全てではありえなくて。


カルレインらしい、とリリティスは思った。

と同時に、全てを自分に打ち明けなかった夫の行動が、ひどく物悲しく思えた。


「おいっ!頼むから、泣くな。俺がお前の涙に弱いのはよく知ってるだろう」


リリティスの頬を伝う涙を、カルレインがそっと指先で拭う。

剣と、鍬を、その時々で使い分ける豆だらけのごつごつとした指。


「カルレイン様が泣かせているのです。私にまで心のうちを明かされないから」


次々とあふれる雫が頭に降りかかって、ううん、とカリナが声を上げて身じろいだ。

一瞬瞳を開けたかと思うと、すぐにまた眠りへと落ちていく。