カルレインがカナン国の王についた頃の話は、なぜだか皆、あまり話したがらない。
リリティスに聞いても、苦笑いするだけで、詳しく答えようとしない。
一度だけ、その頃の記憶がないのだと、嘘のような話をされたことがあった。
どうして教えてくれないのか不思議だったが、寂しそうに笑う母の姿に、
ファラは、それ以上何も聞かないことにしたのだった。
・・多分、マリウス様のお母様は、政略結婚でカナン国の王に嫁いだけれど、
父様に追い出されて、ホウト国へ戻ってきたんだ。
--子供を連れて。
その子供が、マリウスだとしたら。
・・私とソードは、はとこにあたる。
いとこ同士の子供。
ソードは、このことを知っているのだろうか。
知っているから、自分に冷たく当たっていたのかもしれない。
それはそうだ。
もしかしたら、彼は今頃、カナン国の正統な王位継承者として、
両親とともに、何不自由なく暮らしていたかもしれないのだから。