まさかこんな身近に、当事者がいるなどとは思ってみなかったことだ。
沈黙が、やけに長い。
もしも嫌いだと言われれば、どうすればいいのだろう。
心臓が、嫌な音をたてて、鷲掴みにされたように痛んだ。
「私は、カナンに行ったことはありませんから、好きか嫌いかはわかりません。
戦といっても、生まれる前のことでぴんときませんし。
けれど、ファラ様のことは好きです。
だからきっと、カナン国のことも好きになれると思いますよ」
じんわりと心に染み入るレリーの言葉。
どんな高価な贈りものよりも価値がある一言。
「レリーは、このお茶みたいだね」
「え?」
「このお茶みたいに、あったかくて、やさしくて、私の心を豊かにしてくれる」
「ファラ様」
さっきまで笑顔だった二人の瞳の端で、涙が光ったが、泣きはしなかった。
「話してくれて、ありがとう。レリー」
あやまるかわりに、お礼を言うと、はじけるような笑顔が返ってきた。