一瞬で、シドの顔から笑みが消え、無表情になった。

それは、無表情とさえ呼ぶのをためらうほどに、いっさいの感情を消した、無機質なモノ。


次の瞬間。


シドの瞳が、燃えるようにぎらぎらと生気を帯び、

まるで獲物を見据えた、獰猛な肉食獣のように輝く。


ほんの刹那のことだが、その一連の変化は、確かにそこにあった。

ファラがそれに気づいた時には、それは錯覚だと思うほど、もういつもの顔に戻っていたが。


「じゃあな」


シドは、ファラの額に唇を落とすと、体を反転させ、露台の手すりに足をかけた。

どうやら、帰るつもりらしい。


「ちょっと!

結局、何しにきたわけ?」


一瞬、動きを止め、シドは、振り返りもせずに、告げた。


「ただ、あんたに会いに来たかっただけかもな」


ファラは、その一言で、ほてって赤くなっていた顔をさらに赤くする。


「続きは、また今度。俺が、教えてやるよ」


言葉と姿が、同時に闇に溶けるのを見送ってからしばらくの間、

ファラは、その場から動けずにいた。


頭上高くで、天の運行だけが、正確に時を刻んでいた。