ファラは、むっとして、シドを睨みつけた。
あんな事をしておきながら、すっとぼけるつもりらしい。
それとも、シドにとっては日常茶飯事のことで、本当に、忘れてしまったのか。
「とぼけないで!
私の唇をっ!」
「唇を?」
シドは、本当にわからないという風に、表情に変化がなく、ファラは勢いを失った。
「く、くちびるを・・・」
ファラは、その先に続けるべき言葉を、飲み込んだ。
奪われた、なんてこと、恥ずかしくて言えるわけがない。
かといって、口付けた、だと合意の上みたいで、不愉快だ。
「だからっ!」
シドの胸に小さな両手を当て、衣を握り締めて、小さく叫ぶ。
「だから?」
シドの声は、あくまで冷静だ。