「なっ!」


ファラが、声にならない声を発すると、


「といったら、どうします?」


にこりと笑い顔が、返ってきた。

軽い口調に、女性を逢瀬に誘うような笑みをうかべているが、真意がまるで見えない。


普通の付き合いをしていれば、からかったのね、とでも言って、笑うべきところだろう。

しかし、そこにシドの本性がない事を、ファラは良く知っていた。


「本当、なの?」


剣は持ち合わせていないが、すぐに逃げ出せるように、ゆっくりと部屋への扉を背にした。

手を後ろに回す。

顔は正面を向けたまま、手探りで取っ手を探り当てた。



・・この男から、逃げられるだろうか。



隙を見せれば、やられる。

素手で戦っても無駄なことは明らかだし、剣を持っていたとしても、おそらく逃げるのが精一杯だろう。


ファラは、シドの動きの変化を、少しも見逃すまいと、警戒した。