“一人寂しく”の部分にひっかかったのか、それとも、別のことか。
自分でも良く分からないが、とにかくシドの何かがファラの心にもやをかけ、
彼女は、唇をとんがらせた。
「その笑顔で、侍女をたらしこんで、聞き出したのね」
シドは、ぷっと吹き出したあと、大声で笑い出したい気持ちをぐっと堪えた。
たらしこんだなどと、一介の王女が使う言葉ではない。
一体、どういう育ち方をしたのか。
それに、感情がすぐに顔に出るのが、なんとも新鮮だ。
どんな時も、決して感情を出さないように心がけてきた自分とは、大違いだ。
自分が仕えている主とも・・・。
自分が心の中に思い描いていた“カナン国の王女”の心象は、
実際にファラに会ってから、崩れっぱなしだ。
だが。
シドは、そこで思考を停止した。
「何しに来たのよ!」
「ソード様のご命令で、あなたの命を頂戴しに」
顔色一つ変えず、シドは、さきほどの、『いい月夜ですね』と同じ口調で言い放つ。