「ファラ王女」


突然、暗闇が具現化して、口を聞いたのかと思って、

ファラは、心臓が止まりそうなほど驚いた。


「シ、シド?!」


ファラは、露台から身を乗り出して、シドの姿を確認する。

暗くてまったく見えないが、この声を、聞き間違えるはずがない。


その、人とは思えぬ黒い塊は、どうやってか、

簡単に2階にある彼女の露台まで、音もなく上り、鮮やかに登場した。


「こんばんは。いい月夜ですね」


登場の仕方を除けば、どこからどうみても、好青年だ。

シドの笑顔に、ファラは、心臓がどきりと跳ねた。


偽者の笑顔だとわかってはいても、騙されそうになる。


「な、なんで、私がここにいるって知ってるのよ!」


「私が尋ねれば、答えてくれる親切な女性が、たくさんいらっしゃるのですよ。

あなたは、毎日夜遅くに、露台で一人寂しくお月見をなさっているとか、ね」