それと、とソードは、もう一度長いすに体を預けると、穏やかな顔になって付け加えた。


口元には、美しい形の唇が、弧を描いている。


「あの女は、殺すな。


一瞬で殺しては、つまらない。

苦しんで、俺の前に這いつくばらせてやる」


シドは、下げた頭の中で、ほんのわずか、口の端をもち上げた。


机に置かれた器の中で、解けた氷が、カランと小気味よい音をたてる。


「そういえば、王の生誕60周年を祝う式典に、カナンの国王が招待されると、もっぱらの噂ですが、

ソラン殿が王に呼ばれたのは、どうやらその件のようです」


「やはりな。

シド。俺たちのために、素晴らしい機会が巡ってきたじゃないか」


ソードがふふ、と笑うと、それに合わせたように、シドもふふ、と笑みを浮かべた。


シドは、そのまま一礼すると、部屋の外へとつま先を向ける。



・・ファラ王女は、あなたには、渡しませんよ。王子サマ。

私にとっても、大事な切り札ですから。



シドの瞳が、妖しく輝いたのに、気づくものはなかった。