ちくしょう、こんな子供なんか、産むんじゃなかった!
酒瓶の割れる音が、一瞬で、暗闇に溶けていく。
さびれた場末の裏道で、
一人の女が、興奮状態になって、金切り声をあげた。
“こんな子供”は、黙って、それを見ている。
僕だって、あなたの子供になんか、うまれたくなかったよ。
ずっとそう思っていたけれど、口に出したことは、なかった。
口に出せば、感情の上下動が激しいこの女が、どういう行動を取るかわからない。
殴られるか、蹴られるか。それとも、もっとひどい何かだろうか。
どちらにしても、痛いのはごめんだ。
ただでさえ、毎日、生傷が絶えないというのに。
子供は、口にする代わりに、ただ、心を閉ざした。
目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐみ・・・。
最後に、心を閉ざしたとき、ほんの少しだけ、自分の魂が、揺れたような気がした。
けれど、それが何なのかわからないまま、
やがて、時の流れの中に、埋もれて消え去ってしまった--。