「って思ってたんだけどなぁ…昨日までは」

栄光は机に突っ伏し、隣で携帯電話をいじっている静佳(シズカ)を横目に呟く。

「失恋したその日に一目惚れするあたしって、どうよ?」

「別にどうもしない」

素っ気ない反応。

「だってさぁ、あんなに好きで好きでしょーがなかった人にフラれて、もう人生終わったなーってマジで思ってたんだよ?」

それが一瞬にして、吹き飛んだ。

そして、心臓に突き刺さった。



恋の矢が。



「人として最低だと思わない?」

「よくあるコトでしょ。なんでそんなに考え込むかなぁ、このおバカちゃんは」

静佳は栄光の頭をポンポンと携帯電話で軽く叩く。

「新しい恋が見つかって良かったじゃん。応援してあげるからさっさと課題を終わらせてくんない?」

「むー」

無造作に重ねられたノートとプリントが視界に入る。

「二度とテストの前日にラブレターなんて書くもんかっ」

前回の中間テストで赤点が三教科。

人生初の補習+課題を受けることになった。

「普通は前日に書かないけどね」

「以後気をつけます」

あの時はテストよりラブレターの方が大事だったのだ。