後ろからクスクスと笑い声が聞こえてくる。きっと賢は余裕顔で歩いて来ているのだろう。


私は目的地の木陰に腰をおろした。太陽の遮られている場所は、こんなにも涼しいのに、私はまだ火照ったまま冷めそうにない。

後ろからゆっくりと歩いて来た賢は、私の前で立ち止まる。そこで間髪入れずに一言。


「ねえ、桜。
3ヶ月前にさ、俺がここで、お前に言ったこと覚えてる?」

「一字一句違わずおぼえてる。」


──俺さ、ガキの頃からずっと桜のこと好きだった。これからもずっと一緒いたいと思ってる。
……だから、付き合って下さい。

あの時の賢は今の私の数倍真っ赤な顔で、でも真剣な顔で。
ずっと片思いだと思っていた私は思わず泣いちゃって、賢が相当焦って、ハンカチ買いに走ってったんだよね。
それで帰って来た賢に抱き付いたら、賢は泣くほど告白が嫌だったと思っていたらしく、フリーズして今度は私が慌てた。


「どうしたの、いきなり?
賢らしくない。高校で何かあったの?」

「うん、あったよ。
幼稚園の頃からずっと隣には桜が居たのにさ、いないんだよ。どこにも。
たったそれだけの事で、こんなに毎日が違うんだって、桜がこんなに大切な存在だったって再確認した。」

「…私も、賢が隣にいないって気が付いたら、すっごく寂しくなった。」

ギュッと賢のズボンの裾を掴むと、賢は私ごとギュッと抱き締めた。

とっても、とっても恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。暑いのが、更に熱くなる。でも、何時もみたいに離してって言えなくて、離して欲しくなんかなくて。
むしろ、もっと抱き締めて欲しくて私もおずおずと、大きな賢の背中に手を回した。