こんなとき、もしも私が凄腕の?世にも可愛い?小悪魔彼女?なら――
がばっと素早く身を乗り出して、ささっと彼の唇にお礼のキスでもするのかも。
だけど、残念ながら私は“腕に覚えあり”の小悪魔彼女じゃあないわけで……。
“おでこでも唇でも口紅ついたら困るじゃない!”なーんて思ってしまう人だから。
そんなわけで、普通女子の私は、キスではなくて言葉で彼にお礼を伝えた。
「あの……ホントに、どうもありがとう」
座ったままだったけど、心をこめて頭を下げて感謝の気持ちをあらわした。
そんな私を見て、彼が困ったように微笑する。
「指輪、僕が買ってあげたわけじゃないのに。お礼を言われると気が引けるなぁ」
「あっ、えと……“ありがとう”っていうのは、指輪のことだけじゃなくって……」
「?」
「今日あったこと、いろいろ全部。あと、これからもことも、みんな……」
彼の家族に私を引きあわせてくれたことも。
そして――
私の両親の元へ“果たし合い”という名の挨拶に赴こうとしてくれていることも。
「僕のほうこそ……」
「え?」
「君が僕の家族のことを受け入れてくれて、仲良くなってくれて、すごくほっとした」
「そんな、こと……」
「いや、本当にね、すごくありがたいって思ってる」
そうして彼は私の頭にぽんと手をのせ、それから――
「やっぱり詩織ちゃんだよね、うん」
その大きな手で私の髪をくしゃりと撫でた。