ご両親は双子の姉の光(ヒカル)ちゃんを連れて、ちょこっと外出中とのこと。
注文していたお寿司の受取りがてら買い物をして12時くらいには戻るから、と。
ちなみに、弟さん夫婦は二人そろってお友達の結婚式だとか。
ひとまず少しほっとしたような、ちょっと拍子抜けしたような……。
だって、私はてっきり――いきなり大勢に囲まれちゃうって覚悟していたから。
“どうぞどうぞ”と通されたのは二間続きの広くて明るい畳のお部屋だった。
私の実家はフローリングの洋間ばかりで、畳敷きは小さな部屋が一つだけ。
そんな私に格子の欄間や畳の匂いは懐かしいお祖母ちゃんの家を思い出させた。
座布団をすすめられて座ったものの、なんだかついつい、そわそわ、きょろきょろ。
お部屋の中を興味津々と眺めていると――
「シオリ殿」
「ぅわっ!」
い、いつの間に……!?
望クンが、お茶をのせたお盆を持ってすぐ横に……!
むむっ!ぜんぜん気配を感じなかったんだけど、武士じゃなくて、さては忍者か!?
「粗茶でござる」
「か、かたじけない……」
驚いてのけぞりそうになりつつも、かろうじて武士としての?礼は尽くす。
「なんのなんの。ゆるりとくつろがれよ」
「は、はぁ……」
望クンは何やらすこぶる上機嫌。
そんな望クンを見て、お義姉さんは困ったように苦笑い。
「ごめんなさいね。どうも時代劇が最近のマイブームらしくて……。
ついこの間まであんなにドリフに夢中だったのに。サイクルの早い事はやいこと」
飽きっぽさを指摘された望クンはふふーんとトボけて知らぬふり。
そして、部屋の隅から自分で座布団を持ってきて、そのまま私の隣りに落ち着いた。
「おっ。なんだなんだ?望はすっかり詩織さんのファンって感じだな」
「あらまあ、ほんとに」
「望に気に入られちゃったみたいだね、詩織ちゃん」
望クンのご満悦の表情に、お兄さん夫婦も寛行さんもおもしろそうにニコニコ笑った。