彼はほんの僅かに驚いたけど、とくに慌てる様子もなく落ち着き払って話し始めた。

「お電話代わりました、高野です……」

私は彼のすぐ横で無遠慮に耳をそばだてて、話の様子をうかがった。

「どうもご無沙汰いたし……え?あ、ええ、おかげ様で“おベンキ”です、ハイ……」

ばうーん……。

寛行さんまで“おベンキです”って……。

お母さん、実は寛行さんのことを試しているんじゃないだろうか?

もちろん、彼の対応はお母さんの義理の息子になる人物として及第点に違いない。

しかしまあ寛行さんて、ほんっとすごい人だと思う。

会話のセンスというか、その遊び心はまったく尊敬に値する……私にはすぎた人だ。


お父さんからの伝言は、私たちにちょっとした試練を与えるものだった。

もっとも、彼はぜんぜん平気そうだけど。

「むぅぅ。寛行さんは心配じゃないの?」

「そりゃあ少しは心配だよ。もし君が僕の親のこと“絶対無理”って思ったら……」

「うーん。私はやっぱりその逆のほうが心配なんだけど……」

お父さんは私たちに結婚を許すための条件を出してきたのである。

それは――

寛行さんのご両親が私のことを気に入って快く迎え入れてくださること。

私が寛行さんのご両親を敬って尽くしていこうと思えること。

要は、私に対して“相手の親と会った上で、それでも結婚したいか考えて来い”と……。