当初、両親へのお願い(実質的には報告)は私が無事に論文を出してからとも考えた。

修士論文の提出期限は1月上旬。

それを目前に控えた12月は論文を仕上げる追い込み期間。

とはいえ――

早くお互いの両親の了解を得て気分的に落ち着きたい気持ちのほうが強かったから。

幸い私の論文の進捗は順調で“修羅場”を踏む必要はなさそうだったし。

それに、私たちの実家は車で出かけて日帰りできる距離にある。

そんなわけで、多忙を理由に話を先送りにするよりも、一区切りつけてしまおうということになったのだった。

「寛行さん、どんなお手紙書いたの?」

「ん?どんなって、ただお願いしたい用件をそのまま普通に書いただけだよ」

「ふーん」

「はっ!!まさか君のお父さん、読まずに食べたりしないよね!?」

「山羊の親は山羊って話ですか……」

「なーんて」

金曜日の夜、暢気にそんなバカ話をしている最中だった。

「あれ?電話、詩織ちゃんじゃない?」

「あっ、そうみたい」

バッグの中に入れっぱなしのケータイがヴーヴー煩く“早く出ろ!”と主張した。