それは、彼が私の両親へ宛てて送った一通の手紙から始まった。


「きっと今日あたりウチに届いてるんじゃないかな?寛行さんのお手紙」

「そうだね、郵便事故でもない限りはね」

プロポーズの日からほどなく、彼は私の両親へある内容の手紙を書いて送っていた。

それは何を隠そう――

“お願いに行かせて下さい”という“お願いの手紙”だった。

「私がウチに電話して二人の都合を聞いてもよかったのに」

「まあね。でも、この件に関しては君に打診してもらうのはちょっとどうかと思って」

「筋が通らない?」

「そんなとこかな」

結婚の意思を確かめ合った私たちは、年度内、3月には籍を入れようと話し合っていた。

2月の上旬には私の大学院の修了がほぼ確定するし。

4月になってしまうと彼の仕事は約1ヶ月の繁忙期に突入。

私も慣れた職場とはいえ正規職員として勤務体制も変わってくるし。

そうなると二人ともしばらく落ち着かないに違いない。

それに、どうせなら4月から新しい姓で仕事を始めたい気持ちもあったから。

私の大学のこと、二人の仕事のこと、諸々のことを考えてのことだった。