お風呂上り、化粧水をとった手のひらを両頬にぎゅっとぎゅーっと押し当てる。

むぅぅ……。

まったく自分の世間知らず加減に、先のことが思いやられて仕方ない……。

思いつめるあまり、化粧水を押し込む両手に必要以上に力が入る。

むむむむぅ……。

「あの、詩織ちゃん……?」

「う゛?」

頬に手をあてたまま振り返って見上げると、苦笑する彼と目があった。

「なにやら凄い形相なんですが……」

「う゛っ!?」

“形相”だなんて指摘を受けて、慌てて鏡に顔を映す。

「眉間に皺よせて、すごく難しい顔になってたよ?」

おまけに見事に唇は不機嫌そうに尖がってるし……。

「いやぁ、いいもの見たなぁ。こっそり激写しとくんだったなぁ。あー、残念失敗」

「ひどい……」

「まあまあ。それよりさ、早くケーキ食べようよ、ね?詩織ちゃんの手作りケーキ」

見る限り嬉しそうで楽しそうで、彼はとっても上機嫌。

はからずして彼に“笑い”を提供できてしまった自分が妙に可笑しく思えて――

「寛行さんが食べそうなとこだけ、こっそり毒仕込んどきましたから」

「詩織ちゃん、いつそんな凄技を……」

「それはヒミツです」

私は憎まれ口を一つたたいて、軽やかに冷蔵庫の“毒入りケーキ”を取りに行った。