交差点で車が停止して、ふと窓の外を見る。
毎日の通勤ですっかり見慣れた街並み。
土曜日の今日、会社や学校へ急ぐ人波はない。
この時間に開いている店はコンビニくらいで、ほとんどは「準備中」か、あるいは「本日は閉店しました」の札がかかったまま。
目覚めていても、まだ温まっていない街。
月曜から金曜までとは違う、静かで穏やかな朝の風景。
信号が変わって車が発進すると同時に、彼がふいに言った。
「今日はごめんね。申し訳ない」
「え?」
ごめんね、って?
一瞬、何の事だかわからなかった。
「ほら、土曜なのに帰りが夕方すぎになりそうだからさ」
「あー、そんなこと」
土曜日はだいたい、午前中に講義を終えた彼が、昼過ぎに仕事を終える私を車で拾って一緒に帰宅している。
もっとも、土曜に限らず他の曜日でも、自由度が高く拘束時間の少ない彼が、私の終業時間に合わせてくれる日が多いのだけど。
「まったく、結婚式の前日だって言うのにさ。なんだかなぁ」
「まあまあ、仕事だもん。モリモリ働けてちゃんとお給料もらえる職があることを、ありがたーく思わないとデスよ」
「おっ。社会人らしい発言だ。流石だねぇ、フレッシュな人は違うねぇ」
「むぅぅ、なんかバカにされた。フレッシュとかって……」
「してないしてない。とーんでもない」
「めっそうもございません」などと、わざと大袈裟に否定して朗らかに笑う寛行さん。
まったく、この人は……。
「けどさ、本当にごめん。結局最後の最後まで君ひとりにお任せしたというか、おしつけたというか……」
寛行さん……。
彼のこういう気遣いと、率直に「ごめん」と言える潔さをとても好きだと思う。