通勤の車で彼が“歌”をかけるのはめずらしい。
朝はラジオで、帰りはピアノかイージーリスニング系の音楽か。
車で歌を聞くときはだいたい休日で、しかも女性ボーカルの曲がほとんどだから。
でも、今流れているのは……。
「寛行さんて、実はけっこうジャニーズ好きだもんねー」
「だからというわけではないよ」
ほどよい音量で流れるDREAMS COME TRUEのラブソング。
けれども、その名曲を色っぽい声で歌いあげているのは堂本 剛クンだった。
寛行さんが衝動買いしてしまったCDというのは、堂本 剛クンのその名も『カバ』というカバーアルバム。
聞いて楽しむぶんには女性アーティストの音楽が好きな寛行さんだけど、カラオケでは――。
「だって、ジャニーズ番長でしょお?しかも、けっこうな番長ぶりだし」
「それはまあ、否定できないけどさ……」
彼のカラオケのレパートリーときたら、ジャニーズとジャニーズとジャニーズ……。
しかも、新旧問わず。
そういえば、学生時代は同期の森岡先生と田丸先生と3人で少年隊を歌ってたって聞いたことがあったけど。
「ねえねえ。田丸先生たちと少年隊を歌うときって、寛行さんは誰役だったの?」
「僕?僕はいつもあまりものだよ」
「じゃあ、カッちゃ――」
「ちょっと!違うよ、何言ってるの。というか、その人に失礼でしょ……」
「えーっ。じゃあ……?」
「田丸も森岡もそのときの気分でいつも違うの。だから、二人が選ばなかった誰かになる僕もまちまちってわけ」
「あー、なるほどねー」