とりあえず、お母さんに渡された荷物を後部座席によいしょとのせて、小さくふぅと息をつく。

なんとなくまだちょっと気持ちが高揚していたけれど、大きな忘れ物をしなくてすんで安堵した。

やっと……やっとやっと、ちゃんと言えた。


私より少し遅れて、いまいちど両親へ挨拶をすませた寛行さんが運転席へ乗ってきた。

「じゃ、行きますか」

「うん」

寛行さんはシートベルトをしめながら、私をみないままに淡々と言った。

「ちゃんと言えたじゃない」

「うん」

「僕さ、実は息子より娘が欲しいって思っていたりしたんだけど。でも――」

「うん?」

「一人娘だと……ちょっと辛そうだな」

寛行さん……。

なんだかちょっぴり申し訳なさそうに苦笑する彼の横顔。

再び胸にあつい気持ちがこみ上げた。

けれども、私は深呼吸して気を取り直したように前を向きシートベルトをしめた。

「一人はたいへんだよ。娘のほうだって」

私は今どんな顔をしてるんだろ?ちゃんと笑えてるのかな?

「さようでございますか」

「さようでございますよ」

さっきからずっと互いを見ないままの私たち。

彼がこちらを見ないのは照れもあるのだろうけれど、やっぱり彼の優しさなのだと思う。

そうして私たちは、手を振って見送る両親に車の中から応えながらその場をあとにした。