結局、食事の最中もその後もまったくチャンスがなくて……。

言えずじまいのまま、とうとう帰りの時刻になっていた。

「忘れ物なーい?大丈夫?」

「うん……」

荷物の積み込みも終わって後は車に乗り込むだけ。

でも、このまま車に乗ってしまったら、とても大きな忘れ物をすることになる……。

「寛行君もしーちゃんも明日は仕事なんだから。早く帰って休みなさい」

私の気持ちを知ってか知らずか帰りを急かすお父さん。

もう、今しかない。

運転席側のドアの前に立つ寛行さんを見ると、私の決意を後押しするように静かに一つ頷いた。

そうして私は、

「あの……あのね、お父さん!」

助手席のドアのそばから玄関先にいるお父さんの胸に、

「今日は、ありがとう」

飛び込んだ……というか、突撃した。

「今日だけじゃなくって、今までずっと、ずっとずっと、いっぱいありがとう」

ひどく懐かしかった。

懐かしすぎて、泣きそうだった。

「しーちゃん……」

お父さんの声はとても困ったようで、だけどやっぱり優しくて、

「こちらこそ、ありがとう」

私は我慢できずちょっぴり泣いてしまった。

「ほら、寛行君が待っているから。もう行きなさい」

「うん……」

「しーちゃん、着いたらメールね。あと、これこれ、お土産ね。持っていきなさい」

「うん、ありがと」

お母さんから大きな紙袋を受け取ると、私はそそくさと逃げるように車に乗り込んだ。