やっぱり、ちゃんと言わなきゃと思った。

いっぱい感謝してるってこと。

ちゃんと、ちゃんと言いたいと思った。

だから、頑張ってみた。

でも……。


夕方、ちょうど夕食の準備ができる少し前に寛行さんは到着した。

彼が両親への挨拶を済ませるとすぐ、

「上にあるダンボール、今のうちに下に持ってきちゃうね。寛行さん、手伝って」

私は口実を作って、寛行さんを二階の自分の部屋に連れ込んだ。

もちろん“連れ込んだ”のは、みだら~な行為に及ぼうとかではない(そもそも階下には両親がいるわけで……)。

私は結局“あの挨拶”をお父さんに出来ていないことを寛行さんに話した。

「僕、お迎えに来ちゃったじゃない……」

「だって!だってね!なんかお父さんってば、隙がないっていうか……」

二人で並んでベッドの端に掛けて話す。

「ひょっとしたら、君に言わせまい、君から聞くまいと思っておられるのかもね」

「ええーっ。でも、私……」

「?」

「言いたいもん、ちゃんと」

「ほほう。でも、君に言えるのかなぁ?昨日から言い出せないで今に至る君に?」

わざと意地の悪い言い方をして私をからかう寛行さん。

「うぅ……」

腹立たしいけど何も言い返せない私。

不甲斐なくて情けなくて、困ってしゅんとうな垂れる。

「“大丈夫だぞー。しーちゃんはやれば出来る子だぞー”」

「むぅぅ、そうやって……私は真剣に悩んでるんだからね」

「ごめんごめん。けどさ、本当に――」

「え?」

「大丈夫だよ」

そうして、彼は私の肩を抱くと、

「帰るまでまだ時間があるじゃない」

優しくゆったりと微笑んで、

「言えるよ、きっと。大丈夫」

私の頭をくしゃりと撫でた。