お母さんがその台詞を言うのには、それなりの舞台が必要だったらしい。
お母さんってば“花嫁は女優”といったところか……。
「だいたいね、あーいうのはお嫁に行く前の日の夜に言うものでしょー?」
「それはまあ、テレビドラマで見たのはそうだったかもだけど」
「でっしょー?結婚前夜、部屋には翌日着る花嫁衣装が大事に掛けてあってー」
「そんな感じだったよ、私がドラマで見たやつも」
「もっちろん、お衣装は白無垢ね」
「うんうん」
まるで絵に描いたような結婚前夜の光景。
けど、なんかちょっと昔風?な気も……。
ドラマの映像も随分と古っぽかったし。
「私のときはね、まるっきりそ―ゆー感じじゃあなかったのよねぇ」
作業の手を止めて“ふーむ”と懐かしそうに何かを思い出しているお母さん。
そういえば――
お母さんの結婚式のことを聞くのって、考えてみると初めてかも。
もちろん、興味津々の私である。
「じゃあじゃあ、どんなだったの?」
「ドンチャン騒ぎ」
「は?」
なんですと?
「まさに前夜祭みたいな感じだったわー」
「何それ、前夜祭って……」
「務さんのおうちの人たちも集まってね、なんか盛り上がっちゃったのよねぇ」
「お式の前日に?」
「そう、前日に」