春色の夜が二人をとろんと甘く包む。


「ひょっとして、緊張してる?」

「そんな、こと……気のせいだもん」


言いあてられて、ちょっとした気恥しさに目を伏せる。

寛行さんが悪いんだもん。

昼間、あんなこと言うから……。

彼はいつもそうやって平気な顔して反則技を使ってくるのだ。

そして、またもや……。


「“詩織”」

「あっ……」


今度は“呼び捨て”などという飛び道具?まで持ち出してきて。

ちょっぴり強引に抱き込むようにして、彼はその胸に私を引き寄せた。


「と、妻の名を呼んでみる」

「呼ばれてみた」


彼もちょっと照れているのだろうか?

それとも……やっぱり私のこと、おもしろがっているだけ?


「“新婚初夜”って新妻はトナカイのカチューシャをつけるのが習わしなんだって」

「またしょーもないこと言う……」

「“この角がいいねと君が言ったから”」

「“3月16日はトナカイ記念日”?」

「そっ」

「もう!んなわけないし……こんな時なのに、ちーっともロマンチックじゃない」


おバカな話も大好きだけど、ちょっとだけ拗ねた素振りを見せてみる。


すると――


「それじゃあ――」

「ぅわっ……」


あっという間に、ころんと仰向けに寝かされて、手首の自由を奪われた。


「こんな時らしいことをしようか」


優しく唇を塞がれて――

照れ隠しの憎まれ口をたたく術を失った私は、素直に自分のすべてを彼にゆだねた。