“旦那様”はというと、なんだか妙に楽しそうなご様子で。


「いざいざ“奥さん”のご要望におこたえしまして指輪の交換をいたしましょう」


まるで鼻歌交じりの浮かれた調子で、鞄から大事なケースを取り出す彼。


「さてさて取りい出しましたのは!見るからにおめでたいこの紅白のケース!」

「あぅぅ、それ言っちゃうのぉお……」


二人の結婚指輪が入ったリングケースは、何を隠そう赤と白のツートンカラー。

しかも、頭の中に“紅白幕”の絵がパッと浮かんじゃうような赤と白……。

“ブライダル”というより“祝言(しゅうげん)”という言い方が絶対似合う。

ちなみに、この赤いふたをパカッとあけると金色で“寿”の一文字が……。

もう、なんというか……お洒落とは無縁なあの店らしい味のある逸品?なのである。


「指輪はすっごく素敵なやつが出来たのに。むむむ、なんでケースはこうなんだろ?」

「まあまあ。ケースは普段持ち歩くわけではないしさ。それより――」


指輪の入ったそのケースを彼がゆっくり静かに開ける。

中には、二つ仲良くお行儀よく並んだ結婚指輪が。

彼はその片方をそっと慎重に取り出すと、少しあらたまった感じで言った。


「指輪の交換です」


穏やかで優しい彼の瞳が私を真っすぐ見つめてる。


あぁ、そんな目で見つめられたらもう……。


胸がきゅんとして、にわかに鼓動が速くなる。


「左手、かしてごらん」


膝の上でちょっとかしこまって重ねられた私の左手と右手。

おずおずと、右手の下に隠れていた左手を彼に差し出すと――


「あ……」

「あ……」


あ゛ぁーっ!!