思い切り上を向いて、早春の空を仰ぎ見る。
泣きそうなのを……自分で自分を誤魔化すように。
そのとき――
「何してるの?」
冷たい風に肩をちょっぴり震わせながら、彼がこちらへ歩いてきた。
「母さんは“庭を見に行った”なんて言ってたけど、見どころなんてないでしょ」
「そんなことないよ」
「そう?」
「うん。見どころ満載」
「それはさすがに言い過ぎでしょ」
「んなことないもーん、だ!」
そうして、私は寄り添うようにして彼に横から抱きついた。
「寛行さん、私ね――」
「うん?」
「いっぱい好きになっちゃった」
「え?」
「寛行さんのこと。もっともっと、ずっとずっと、たくさん好きになっちゃった」
「え?え?え?」
普段は照れ屋な私だけれど、顔を見られずにすむのなら、けっこう大胆になれるのだ。
彼はというと、いきなりの熱烈告白に流石に少々戸惑い気味???
大好きな彼の体温と匂いを感じながら私は思った。
こうしてまた彼と一緒にこの木に会いにきたいなって。
とくに――
金木犀が香る頃には……。