まだ肌寒い三月、薄曇りの空の下で私はその木をじっと見つめながら考えた。
彼の、誠実さについて、強さについて。
そして――
優しさについて。
お母さんの話によると、彼は不平不満をほとんど言わずモコの世話をしていたという。
黙々と、淡々と、ただ一生懸命に。
彼がたった一人でモコの世話を続けたのは……続けられたのは何故か?
なし崩し的であったにせよ兄弟で世話をすることに同意した責任感から?
地味で人が嫌がるような仕事もやりぬく忍耐力を持ち合わせていたから??
それとも……。
可愛そうなモコへの同情から???
はたして、彼の心内は……?
きっと、彼は……あくまでも私の想像だけれども、おそらく――
可愛そうだなんて思っていなかったんじゃないかな、モコのこと。
っていうか、正しく言うと――
可愛そうって思うのはモコに対して失礼だって思っていたんじゃないかな、って。
或いは――
可愛そうにしてしまうことが、一番可愛そうなんだって、そう思っていたのかも。
“嫌々”だとか“仕方なく”だとか、そんな素振りを見せなかったのはだから。
モコの気持ちはモコに聞いてみないとわからないけれど、だけど……。
高野家へ来て、寛行さんと家族になれて幸せだったんじゃないかな?
うんん、幸せだったに違いない!
……そう思いたかった、どうしても。
時折吹く風に、庭の木々が静かに揺れる。
彼の優しさがとても尊く思えて、ひどく愛おしくて。
立ち尽くしたまま、私は泣きそうになった。