“モコ”は寛行さんのおうちで昔むかしに飼っていたウサギの名前だった。

白くてモコモコしているから“モコ”かと思ったら、残念ながら由来は不明。

もともとはご近所の家で飼われていたウサギだったそうな。

だけど、そのご家族がお引っ越しをすることになって。

しかも、引っ越し先ではペットが飼えないことがわかって。

それで、モコのもらい手を探していたのだ、と。

モコが高野家へ来た経緯を教えてくれたのはお母さんだった。


「“飼いたい!”って言い始めたのは友和だったのよねぇ。

で、正義も抱き込んで二人で“飼いたい!飼いたい!”って騒ぎ始めてねぇ。

今思うと、寛行は飼うのに賛成とも反対とも言ってなかったような気がするけど――

友和と正義が“兄弟三人で世話するから飼わせて!”って言ってきてねぇ。

実はもらい手がなかなか見つからないって事情も知っていたし、近所だから。

子どもたちに動物を飼う経験をさせてあげたいっていう気持ちもあったりしてね。

それで、モコをもらい受けて我が家で飼うことになったのよ。でも……ね――」


……。

……なんとなく、わかってしまった。

お母さんから話の続きを聞くまでもなく、およその見当はついた。

そして――


「結局、寛行が一人でモコの世話をするかたちになっちゃって……一人でずっとね」


それはそのとおりの展開だった。

最初はちやほやするものの、世話をするのに飽きてしまうという典型的なパターン。

だいたいは母親に押し付けられそうな世話係だけど高野家では違っていた。


「ウチは共働きで、当時は私もとても忙しくてね。

“皆で世話しなさい!”って注意はしていたけれど、結果的には寛行ひとりに……。

そういうのを見越して貰い受けるべきでなかったのよ、本当は……本当に……」


お母さんのその声が涙で詰まってしまったから――

私は切なさで居たたまれない気持ちになった……。