お母さんの話を聞きながら、私は何故か彼に片想いしていた頃を思い出した。

私が恋い焦がれ想いを寄せていた高野先生。

あの頃の彼は――

“常に何処か引いた感じ”が確かにあった。

そういえば、秋ちゃんは彼のそういう感じを“閉じた感じ”なんて言ったっけ。

ある意味ちょっと厭世的な雰囲気っていうのかな?

って……。

あれ?なんでこんなこと思い出したんだろ、私ってば……。



お茶の飲みつつ、お菓子をつまみつつ、お母さんはさらに話をつづけた。


「いつも兄弟ゲンカをおっ始めるのは友和と正義だったんだけどね。

どういうわけかねぇ、いつの間にか巻きこまれちゃうのよねぇ、寛行は。

ん?あら?考えてみたら今も同じだわそれ。あははは!変わってないわねえ」


男三人の兄弟ゲンカって、いったいどんななんだろ?

そりゃあ大人になった今は口喧嘩だろうけど、子どもの頃はさぞや……寛行さんも!?


「あの、やっぱり寛行さんも取っ組み合いのケンカとかしてたんですか?」

「ええ、そりゃあもう。男三人いると大変だったわよ~。ねぇ、あなた?」


お父さんはずっと黙ってお母さんと私の話を聞いていたのだけれど――


「うむ、しかし……寛行が自分から手を出すことはめったになかった気がするなぁ」


お母さんに話を振られて、しみじみと思い出しながら息子たちの思い出を語り始めた。


「決して寛行はケンカっ早いほうではなかったんだよ、兄弟の中では。

大騒ぎをするのは友和で、大騒ぎと大暴れをするのが正義で。

寛行はあまりそういうことがなかったような気がするなぁ、わたしの記憶では。

ただ、そんな寛行でも大声で怒鳴って皆を黙らせたことがあったんだよ」


そうして、お母さんのほうを見て“なぁ?”と同意を求めるお父さん。

すると、お母さんは――


「あぁ……“モコ”の話ね……」


とても懐かしそうに微笑んで、それからちょっと目を伏せた。


“モコ”って?なんのこと???