寛行さんのお父さんに署名捺印をいただいて、本日のお仕事一つめ終了。

このあと私の実家にも同じお願いをしに行くのだけど、出掛けるにはまだ時間がある。

さっきから、私にはちょっとだけ気がかりなことがあった。


「寛行さん」

「んー?」


ありゃりゃ、やっぱり眠そうだ……。

昨日いきなり急ぎの仕事が飛び込んできてしまった彼。

それがまた少々厄介だったらしく。

こんな忙しい日に限って可愛そうに……彼は寝不足気味なのだ。


「少しお昼寝させてもらったら?」

「んー、いいよ。大丈夫だから」


そう言いつつも、眼鏡を外して目をギューッと強く瞑ってみたり、ゴシゴシしたり。

そんな彼の様子を、お父さんやお母さんも“おやまあ、あらまあ”と気にしてくれて。

少しでも体を休めていくようにと彼に熱心に勧めてくれた。


「寛行、しーちゃんのご両親の前で舟漕ぐつもり?困るでしょ?」

「おまえは帰りの運転もあるのだし」

「ちょっと休んでスッキリして、シャキッとして行きなさい!」

「そうだぞ。居眠り運転なんてまったく洒落にならんぞ」


それでも――


「いや、しかしさ……」


彼がなかなか“うん”と言わないのは私への心遣いなのだとわかった。

彼が寝てしまえば、彼の両親と私だけになってしまう、そのことへの気遣い。

それがわかったから――


「寛行さんが寝てる間、お父さんとお母さんと三人で楽しく御歓談しちゃおーっと」


私はそう言って彼にムフフと笑ってみせた。